こうした状況は多くの方が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。決算が近づく中、誰かが更新されていないファイルから数値を参照し、その1時間後には本来起こるはずのない数値の不一致の原因を突き止めるために追われることになります。修正そのものにかかる時間は20分です。しかし、その原因を突き止めるまでに2日かかりました。
ここで多くの記事なら「表計算ソフトはもうやめましょう」と言うでしょう。しかし、本当の問題はそこではありません。率直に言えば、それはこれまで積み重ねてきた仕事を軽視する見方でもあります。
問題は表計算ソフトそのものではありません。問題なのは、それを前提として構築されたプロセスです。
ロジック自体には価値があります。制約となっているのはそれを扱う手段です。
チームが日々管理しているワークブックに、どのような知識が蓄積されているか考えてみてください。収益を各事業体へどのように配分するか。どの項目を有効な照合項目として扱うか。レビューが必要となる差異の閾値。完成までに1年を要したグループ会社間取引の相殺ロジック。これらは単なるデータではありません。組織に蓄積された知識そのものです。それはビジネスロジックであり、財務部門にとっての重要な資産です。
問題は、表計算ソフトがそのロジックの共有やバージョン管理、さらには他システムからの確実な活用を前提として設計されていない点にあります。プロセスが誰かのデスクトップ上のファイルに閉じ込められている限り、そのプロセスは後続のあらゆるシステムから見えません。スムーズに引き継ぐこともできません。監査を行うには、すべてのシートを開いて確認しなければなりません。そして、それを構築した担当者が退職すれば、その人が持っていた業務ノウハウも一緒に失われてしまいます。
なぜ今、この問題が2年前以上に重要なのか
現在、多くの財務部門では、決算業務の迅速化、異常検知、予測支援、ナラティブレポーティングなどを目的としてAI導入へのプレッシャーが高まっています。その提案は非常に魅力的です。しかし、現時点で得られている成果にはばらつきがあります。
その理由は、財務分野特有の事情にあります。AIは大量のデータを高速に処理し、パターンを抽出することはできますが、自社独自のコスト配分ルールを適用したり、グループ会社間取引の相殺を検証したり、組織で何を例外と定義しているかを理解したりすることはできません。
税務チームにとっては、管轄区域のマッピングを正確に適用できないことを意味します。監査チームにとっては、監査証跡のロジックを再現できません。FP&Aにとっては、計画モデルに組み込まれた制約条件を反映できません。そのためには文書化され、ガバナンスが確立され、反復可能なロジックが必要です。そして、そのロジックがAIから見えない表計算ソフトの中に閉じ込められている限り、AIはそれを適用できません。その結果、AIは推測するしかありません。しかし財務分野では、税引当金や連結処理ルールについて自信ありげに推測した結果は小さなミスでは済みません。それは重大なリスクになります。
AIから真の価値を引き出しているのは、まず土台を整備し、その上でAIを活用しているチームです。
ほとんどのチームがまだ答えを見つけられていない問い
本当に重要なのはどのツールを使うかではありません。プロセスのロジックをどこで管理し、誰が利用できるようにするかです。照合ルール、変換ロジック、検証基準が閉じたファイルではなくガバナンスの効いたワークフローとして管理されるようになれば決算業務の一貫性は高まり、エラーはより早く発見され、業務の引き継ぎも容易になります。
しかし、その状態へ移行するにあたって多くのチームはいまだに現実的な課題に直面しています。Excelで長年にわたりロジックを構築してきた税務チーム、監査部門、FP&Aチームはどのように移行すればよいのでしょうか。何から着手し、何を残し、そして1週間で現実的にどこまで進められるのでしょうか。
そこで重要になるのが具体的な進め方です。それについてはこの後詳しく見ていきます。
