木曜日の午後、シニアデータエンジニアのもとに財務部門からまたSlackメッセージが届きます。依頼自体はささいなものです。データの結合、名前の変更、列の再計算といった作業です。しかし、それによる業務の中断は決して小さくありません。こうした依頼の一つひとつが、チームが本来取り組むべきプラットフォーム業務の時間を奪います。そして次第に、このような日常的なデータ前処理がロードマップに影響を及ぼすようになります。
このトレードオフは、あらゆる場所で発生しています。McKinseyの「2025年のAIの現状」によると、AIの導入は今やほぼ当たり前になっており、88%の組織が少なくとも1つの業務領域でAIを日常的に活用していると回答しています。しかし、AIの活用を企業全体へと拡大し始めている組織は約3分の1にとどまっています。多くの組織で障壁となっているのは、モデルの品質ではありません。課題となっているのは、ワークフロー、データ、運用モデルです。つまり、モダナイゼーション、ガバナンス、AI活用の推進を同時に担うITチームやデータチームに再び負担が集中しているのです。
その一方で、事業部門は依然として答えを必要としています。アナリストたちはツールがもっと使いやすく、ガバナンスが明確であれば、自分たちで対応できるはずのデータ準備依頼のバックログを数多く抱えています。
自然言語がこの状況を変え始めています。アナリストは必要なワークフローを日常的な言葉で説明するだけで、確認、調整、実行可能なワークフローを作成できます。IT部門にとってこれは大きなチャンスです。ただし、そのワークフローが他のデータ関連業務と同じ管理基盤の中で構築されていることが前提です。そうでなければガバナンスの効いていないプロセスを、より簡単かつ迅速に構築できるようにしただけです。
自然言語がデータ前処理にもたらす変化
アナリストが次のように入力する場面を想像してみてください。「Salesforceの商談エクスポートデータとMarketoのキャンペーンデータを結合し、メールアドレスを基準に重複を排除して、前四半期に3通を超えるメールを開封した人にフラグを付けてください。」
対話形式によるワークフローの構築
自然言語アシスタントは、その指示を結合・フィルタリング・標準化・検証など、依頼に必要な一連のワークフローステップへと変換できます。アナリストは引き続きワークフローを視覚的に確認し、変換内容をチェックします。問題がありそうな箇所を修正し、内容に問題がなければ実行します。得られるのはブラックボックス化された答えではありません。内容を確認できるワークフローです。
AIを活用したデータクレンジングと変換
自然言語は、アナリストがこれまで何時間もかけて手作業で行っていた次のようなデータクレンジング作業の自動化にも役立ちます。
- 一貫性のないソースシステム間でのスキーマの整合
- 日付形式や通貨形式の標準化
- 同じ列に「U.S.A.」「USA」「United States」など表記の異なる値が入力された自由記述フィールドのクレンジング
- 後続のレポート作成前における欠損値、重複レコード、外れ値の特定
自然言語が最も効果を発揮するのは、データが監査対象外となる別経路ではなく、既存のテクノロジースタックと同じガバナンスが適用された環境内で、こうした処理を行う場合です。
副次的に得られるワークフローのドキュメント
もう1つ、実用的なメリットがあります。AIアシスタントは、ワークフローの構築中にそのロジックの説明、異常の検出、ドキュメント作成を支援できます。多くのチームには、ソリューションの構築と同時に適切なドキュメントを整備する十分な時間がありません。ドキュメントを後から作成するのではなく、構築中に記録しておけば、後日ほかの担当者がワークフローを保守する際に必要な情報が残っている可能性が大幅に高まります。
データチームとエンジニアリングチームに起こる変化
自然言語によって、エンジニアやデータサイエンティストが不要になるわけではありません。ただし、基本的なデータ前処理をビジネスの背景を理解している担当者へ移管し、専門家がそのスキルを必要とする業務に専念できるようになります。
これこそが業務の真の再配分です。結合、名前変更、クレンジング、簡単なデータ拡充による中断が減り、パイプラインアーキテクチャ、ガバナンス設計、特徴量エンジニアリング、そして高度な技術的判断を要する品質問題に、より多くの時間を割けるようになります。
これがうまく機能すればアナリストはより迅速に作業できるようになり、IT部門に寄せられる、重要な優先事項を妨げる細かな依頼も減少します。
ガバナンスが簡単になるどころか、むしろ複雑になる理由
自然言語によってワークフローの構築が容易になれば、ワークフローを作成する人も増えます。これは望ましい変化ですが、その分、IT部門が管理すべき範囲も広がります。利用規模が拡大するにつれて、ガバナンスにおいては、ポリシー、権限、トレーニング、レビュープロセス、モニタリングがさらに重要になります。
初期導入では多くの場合、予想どおりの問題が発生します。承認済みのデータソースを定義する前に、AIを活用したワークフロー構築機能を有効にしてしまいます。監査ログは技術的には利用可能でも、実際に誰が確認するのかが決まっていません。ユーザーに与えられる自由度は高まる一方で、機密データや不適切な出力に関するエスカレーション手順が整備されていません。
通常この取り組みをうまく進めているチームは、対象を限定したユースケースから始め、ガバナンスの責任者を明確に定めたうえでトレーニングを受けた少人数のユーザーグループに導入します。このパイロット運用が順調に進んだ段階で、他のチームやユースケースへと展開します。
IT部門が本当に問うべきこと
IT部門のリーダーが問うべきなのは、自然言語でワークフローを構築できるかどうかではありません。問うべきなのは、構築されたワークフローが安全で、再現性と追跡可能性を備えているかどうかです。
ガバナンスを迂回するセルフサービス型の準備機能は、生産性の向上ではなくリスクとなります。
最も重要なのは、データガバナンスとAIガバナンスという2つの層です。
データガバナンス:データがどのように扱われるか
技術的な知識が少ないユーザーが構築したワークフローであっても、他のすべてのワークフローと同じ管理のもとで運用する必要があります。実際には通常、次のような管理が求められます。
- 企業のIDプロバイダーと連携したロールベースのアクセス制御
- ワークフローの実行、データアクセス、変更に関する監査ログ
- データの出所と変換プロセスを示すデータリネージの追跡
- 機密データセットや規制対象データセットに対するポリシーの適用
IBMの2025年データ侵害のコストに関する調査によると、AIモデルやアプリケーションに関する侵害を経験した組織のうち、97%が適切なAIアクセス制御を導入していませんでした。また、シャドーAIが広く利用されている組織では、データ侵害によるコストが世界平均で67万ドル増加していました。管理されていないAIの利用は、すでに測定可能なセキュリティリスクを生み出しています。
AIガバナンス:モデルがどのように扱われるか
ワークフローが大規模言語モデルに依存する場合、IT部門は次のような問いに対する明確な答えを把握しておく必要があります。
- どのモデルが承認されているか
- データはどこで処理されるのか
- どのプロンプトと出力が保存されるのか
- 外部モデルを利用できるのは誰か
- 利用状況はどのように監視され、課金されるのか
簡単な例を挙げると、この問題がより具体的になります。ある財務アナリストが契約書のPDFを要約し、更新日を抽出するワークフローステップを必要としています。ガバナンスが適用された環境では、アナリストはIT部門があらかじめ設定した承認済みのモデル接続から選択します。ワークフローが実行されると、そのアクティビティはログに記録され、データの経路も引き続き確認できます。アナリストは作業を迅速化でき、IT部門はモデルの一覧、データフロー、監査証跡を管理できます。
セルフサービス分析のための実践的なフレームワーク
導入を検討する際は、ガバナンスのレベルをワークフローのリスクに合わせると効果的です。セルフサービスだからといって、すべてのユーザーに同じ権限を付与する必要はありません。リスクのレベルに応じて、適切な管理を適用することが重要です。
ティア1:低リスクの日常的なデータ前処理
ガバナンスが適用された社内データに対する、日常的な結合、書式設定、重複排除、要約処理。通常は標準的なアクセス制御と監査ログで十分です。多くのチームにとって、ここが最適な出発点です。
ティア2:部門横断的なデータ拡充
複数の業務システム、非構造化文書、外部のAIサービスを組み合わせるワークフロー。このティアでは承認済みのデータソース、AI支援ステップで使用する承認済みのモデル接続、出力の定期的なレビューなど、より慎重な管理が必要です。
ティア3:高リスクの規制対象ワークフロー
顧客の個人識別情報(PII)、規制報告、財務統制、医療データ、モデルによる意思決定に関わるあらゆるワークフロー。このティアでは本番環境への導入前の明示的な承認、構築者と承認者の役割分担、完全なデータリネージ、継続的なモニタリングが必要です。
多くの組織では、ティア1の業務を過剰に管理する一方で、ティア3の業務に対する管理が不十分です。自然言語だけでこの問題を解決できるわけではありませんが、各ティアの境界を明確にすることで、階層型の運用モデルを適用しやすくなります。
実際の運用ではどうなるか
この記事の冒頭で紹介したシナリオには、いくつかの展開が考えられます。
望ましくない展開は、事業部門が待ちきれずにIT部門を迂回してしまうことです。迅速に答えを得るために、表計算ソフト上でシャドーワークフローを構築したり、機密データを一般公開されているAIツールに貼り付けたりします。こうした事態はすでに多くの組織で発生しており、通常は当初のバックログよりも深刻な問題につながります。
より望ましい展開は、IT部門がガバナンスの適用された環境の中で、ユーザー自身がより多くの作業を行えるようにすることです。そのためには承認済みデータソースへのアクセス、ガバナンスが適用されたAIモデルへのアクセス、監査およびデータリネージ機能に加え、アナリストが実際に利用できるワークフロー構築ツールを1か所に集約したプラットフォームが必要です。この例ではAlteryx Oneを使用します。
結合を依頼したアナリストはDesignerを開き、以前はAlteryx Copilotと呼ばれていたチャット形式のワークフローアシスタントであるAsk Alteryxを使って作業を開始します。アナリストがSalesforceのパイプラインデータとMarketoのエンゲージメント履歴を結合したいと伝えると、Ask Alteryxは結合ロジック、重複排除、フィールドの標準化を順に案内し、各ステップを提示して、次に進む前に確認できるようにします。
アナリストはDesigner内のAIツールパレットも利用できます。このパレットには一貫性のないソース間でスキーマを整合するSchema Fitツール、あいまい一致と標準化を行うPrecision Matchツール、請求書などの構造化文書からデータを抽出するInvoice Extractorツール、カスタムプロンプトを設定してLLMベースの処理を実行するPromptツールやLLM Overrideツールなど、特定の用途に特化したツールが用意されています。各ツールはワークフローのほかの部分と同様に、ガバナンスが適用された環境内で動作します。
バックグラウンドでは実行メタデータがログに記録され、データリネージが維持されるとともに、一元管理されたID基盤を通じてアクセスポリシーも継続的に適用されます。AIを活用したワークフローだからといって、より緩いガバナンスが適用されるわけではありません。これらは、ほかのすべてのワークフローと同じ基準でレビューと監査の対象となります。
IT部門が設定すべきこと
Alteryx Oneのガバナンス機能には、SAMLおよびOAuth認証、OktaやAzure ADなどのプラットフォームとのIDプロバイダー連携、ロールベースの権限管理、監査ログ、自動ユーザー管理のためのSCIMプロビジョニング、AtlanやCollibraなどのガバナンスプラットフォームとのデータリネージ連携機能が含まれます。
AIモデルのガバナンスに関して、Alteryx Oneは、OpenAI、Anthropic、Google Gemini、Cohereなど、企業が承認したLLMとの接続に対応しています。また、特定のコンプライアンス要件を持つ組織向けに、独自モデルを利用するBYOM(Bring Your Own Model)方式にも対応しています。LLM (大規模言語モデル)への接続権限はFull Userロールに紐付けられており、カスタムロールを使用してさらに制限することもできます。そのためIT部門は利用可能なモデルと、それらを利用できるユーザーの両方を管理できます。
導入前に準備状況を判断する方法
導入前に次の3つの質問を検討することで、準備状況を把握できます。
- どのような依頼が業務を最も中断させていますか?受け付ける依頼の大半が、結合、書式設定、クレンジング、簡単なデータ拡充といった反復的なデータ前処理であれば、自然言語によってその負担の大部分を軽減できる可能性があります。一方で、対応待ちの依頼の大半が壊れやすいパイプライン、複雑に絡み合った依存関係、定義されていないビジネスロジックに関するものであれば、問題は基盤となるアーキテクチャにあります。
- どのユーザーにより多くの責任を任せられますか?初期導入に最も適しているのは、業務の背景を十分に理解している一方で、支援なしにデータ前処理を自動化できるほどの技術的知識は持たないアナリストです。自然言語は作業の迅速化に役立ちますが、人による判断に取って代わるものではありません。結合結果が妥当かどうかを判断できなければ、誤ったワークフローが単に速く実行されるだけになりかねません。
- 現在、組織のAIガバナンスはどの程度成熟していますか?承認されているモデル、データの処理場所、保存される情報、外部モデルを利用できるユーザー、利用状況の監視方法について明確に答えられない場合、通常その不備は導入後に表面化します。承認済みのツールが利用できなければ、従業員は未承認のツールを使うようになり、監査証跡も完全に失われます。
ほとんどの組織が、ガバナンスの整ったセルフサービスモデルを一度に構築するわけではありません。まずは1つのワークフローカテゴリ、1つのガバナンスパターン、1つの信頼できるグループから始め、そこから段階的に拡大していきます。
はじめに
Alteryx Oneは自然言語を活用したデータ前処理、ガバナンスが適用されたAIモデルへのアクセス、エンタープライズレベルの管理機能など、前述のワークフロー全体をサポートします。IT部門が管理でき、アナリストがエンジニアの支援なしで利用できるプラットフォームです。次の方法で評価できます。
- 無料トライアル: 無料トライアルを開始して、自然言語を活用したワークフロー構築を実際にお試しください。ご利用を開始するのに、特別な設定は必要ありません。
- デモのお申し込み:お客様の環境に合わせて設定されたガバナンス管理機能やAI機能をご覧になりたい場合は、デモをお申し込みください。お客様固有のIT要件に対応できる担当者が詳しくご説明します。
- ガバナンス機能の詳細: Alteryx Oneのガバナンス概要では、IT管理者が利用できるアクセス制御、監査ログ、ID連携、データリネージ機能について説明しています。
