1 回 130 時間のデータクレンジング作業が約 5 時間に
作業の高度化にも寄与
デジタルトランスフォーメーションの流れを後押し
地域:グローバル
業種:金融サービス
部門:BI/分析/データサイエンス
会社の背景株式会社三菱UFJ銀行(MUFG Bank, Ltd.)は、東京都千代田区丸の内に本店を構え、日本国内772支店、海外76支店を展開する都市銀行です。2006年1月1日に東京三菱銀行とUFJ銀行が合併して、三菱東京UFJ銀行として誕生しました。
三菱 UFJ 銀行は、グローバルに統一された金融犯罪対策プログラムの推進を担う「グローバル金融犯罪対策部(以下、GFCD)」 を発足しました。
「グローバルに統一された金融犯罪対策プログラムの構築」というミッションを達成するため、Alteryx を導入した同行。
Alteryxの導入前の課題をはじめ、導入に至る経緯、Alteryxの活用によってGFCDの業務にどのような変化と効果がもたらされたのかについて、三菱UFJ銀行 FCOJインテリジェンスオフィス所長の吉峰知宏氏、GFCDオペレーショングループ テクノロジーチームの濱田暢久氏、藤森義朗氏、さらにインテリジェンス&アナリティクス (以下、I&A) の松浦裕児氏、小野精一郎氏にお話を伺いました。
グローバル金融犯罪対策部(GFCD)の発足は、2017 年 11 月。 グローバル金融犯罪に関する情報や知見が集まるニューヨークに 本部を構え、ロンドン・シンガポール・東京と合わせて 4 拠点にて展開しています。
現在、マネーロンダリング(資金洗浄)や経済制裁対象国への送金を見逃さないのはもちろんのこと、 規制当局からは世界各国の金融機関に対し犯罪検知のために新技術を積極的に利用することが推奨されています。
こうした背景を受け、2017 年 11 月に GFCD が発足。 金融犯罪対策プログラムの推進を担うために、AML(マネーロンダリング対策)や経済制裁対応の知見が集まるニューヨークに本部を構えました。
「GFCDの立ち上げは、『金融犯罪対策に対する信頼を守り、銀行のすべての業務分野においてグローバル金融犯罪と戦う』という、三菱UFJ銀行の強い決意を示しています。われわれのミッションは、三菱UFJ銀行が業務を展開する国・地域において、金融犯罪対策法令の基準に従いながら、グローバルに統合された一貫性ある対策プログラムを構築し、提供していくことにあります」(吉峰所長)。
われわれのミッションは、三菱UFJ銀行が業務を展開する国・地域において、金融犯罪対策法令 の基準に従いながら、グローバルに統合された一貫性ある対策プログラムを構築し、提供していくことにあります
FCOJ インテリジェンスオフィス 所長
グローバル金融犯罪対策部
課題1:膨大なデータ処理とシステムの不統一
三菱UFJ銀行には、メガバンクであるがゆえに非常に多くのトランザクション(取引データ)が存在します。 AML 対策においてはシステムで膨大なトランザクションを検索して疑わしいものを抽出し、人の目で一つ一つ判断しています。 加えて、人の目で新たな高リスク取引を検知するのは、大変負荷が高いことが課題でした。
「人の目で見るには非常にデータ量が多い上に、判断の難易度も高い。取引間の関連性を見つけるのにも、限られたシステムと人員で行わざるをえませんでした。取引形態が複雑化していく中、より高リスクのものを見つけてそこに注力していかなくてはならない、という課題もありました」(吉峰所長)。
吉峰所長が挙げた課題については、現場オペレーションであるI&Aも感じていました。「I&Aでの業務の一つに、数十万件におよぶ国内振込や外国送金などのデータを分析する、というものがあります。これをエクセルでの手作業で対応していたため、一つの分析に数十時間かかるケースもあり、非効率な状況となっていました」(小野氏)。
「ますます複雑化していくリスクに対し、I&Aにも高度な分析が求められています。しかしI&A発足当初は、そのためのツールがないという状態。適切なツールが無いことで、十分な分析を実施するのに苦労していました」(小野氏)。「集めてきたデータをどうやって使おうかと考えたときに、違ったフォーマットのデータを、いかにして開発せずに整合性の取れた形で使えるようにするか、というのが大きな課題でした。システムの補修コストの面でも、なるべく差分を減らした形でいかに早く利益を上げるか、実行性を上げるかといったことも考えていました」(藤森氏)。
課題2:探索型の分析ができるデータサイエンティストの不足
グローバル金融犯罪の兆候をいち早く見抜き、対策を立てるためには、探索型のデータ分析スキルが必要です。 モニタリングのシナリオをどうチューニングしていくか。データを統計的に分析し、どうアラートを出すか。 これまでになかった新しいリスクが潜んでいないかを、より予測的に検知する必要があります。
「同じスキルセット・知識をもっていないとコミュニケーションすら困難。難しい言語やさまざまなライブラリを使うとなると、それらを知っている人に作業が集中します。かといって、エクセルではできることが限られている・・・。データ分析はプロだが、データ処理に関してはプロではない人が、大量のデータを前にして、時間をかけて四苦八苦しているという状況でした」(藤森氏)。
「東京では個人のお客様から大企業まで、大量の取引データが生成されます。複雑かつ多様な商品を取り扱う東京でデータを分析しなければ、正しくリスクを検知できないという課題もありました」(濱田氏)。
新技術の利用には相応の数のデータサイエンティストが必要となることが想定されますが、足元の日本の労働市場においてはデータサイエンティストの絶対数が不足しているのが実情です。 そこで、ユーザーインターフェースに優れ、分析ツールにまだ馴染みの薄いユーザーにもハードルの低い Alteryx が採用されました。
Alteryx を選ぶときのポイントとなったのは、3 点あると言います。
ポイント 1:使いやすさに優れたユーザーインターフェース
まずはユーザーインターフェースに優れ、直感的に使えるものであるということ。 コーティングできないと使えないような、ハードルの高いものではないことがポイントでした。
「ぱっと見て何をやっているのかが分かる、初めて使う人や新しく入ってきた人でもすぐに使えるものを探していました」(藤森氏)
「使いやすさ」というユーザーフレンドリーな面は、現場のオペレーションからも当時から強く求められています。「こうしたツールを操作した経験のない行員でも使いやすいユーザーフレンドリーな機能、一度作ったものを後から変更できるフレキシビリティ、視覚的に処理プロセスが理解できるわかりやすさ、これらが選ぶときのポイントでした」(松浦氏)。
ポイント 2:大量のデータ処理に耐えられるパワフルなエンジン
次のポイントとして挙がったのは、複雑かつ負荷の高いデータクレンジング (データ処理) に耐えられるパワフルなエンジンであることです。「データ処理の観点」は非常に重要であると濱田氏は言います。
ポイント 3:データを一元管理できるネットワーク力
さらに、世界全体で一元的に管理できるネットワーク系の力を挙げています。
「いろいろなところにサーバーを置いた上で、それを有機的につなげる機能がどうしても必要になります。サーバー間をつなぎつつ、作った知的財産を一箇所で管理できるという、まったく違う要件を同時に満たすところが大きな利点だったと思います」(藤森氏)。
I&A からはさらに、現場レベルでのノウハウ・ナレッジの共有のしやすさや、プロセスの見える化を求める声も挙がっていました。
「細かい作業の積み重ねである分析のノウハウは、個人に溜まる傾向があります。ノウハウを次代の人に伝えていけるか、分析のプロセスの見える化ができるか、というところも重要でした」(小野氏)。
こうした課題をクリアするシステムとして、Alteryx が選ばれました。
「最終的には、Alteryx Serverでワークフローをグローバルに共有できることが大きな魅力となりました」(濱田氏)
Alteryxは人材育成にも寄与しています。 データ処理の素人だった人が、トレーニングを受けた あとも自分で作ったワークフローを使って試行錯誤していますが、 この過程で人材がだんだん育っていく。 ナレッジのシェアの点でも非常にやりやすい。
ディレクター
グローバル金融犯罪部 オペレーショングループ テクノロジーユニット
Alteryx 導入当初はこうしたツールに対する経験や知見が乏しく、どこまで使いこなすことができるか、不安な印象を持っていたとのこと。 特に実際に Alteryx を直接扱うことになる I&A にとっては、作業工程や業務内容が大きく左右されるかもしれない、大きな局面です。
しかし、Alteryxの担当者とのトレーニングを重ね、操作にも慣れ、今では業務に欠かせないツールになっている、と松浦氏は言います。
「メンバーが操作マニュアルを作ったり、勉強会を開催したりすることにより、情報やノウハウを共有するなど、チーム内でトライ&エラーを繰り返しながら習得を進めました」(松浦氏)。
GFCD の中でも一つの転換期となった Alteryx 導入。 取り入れた後は、どのような効果や社内評価につながったのでしょうか。
三菱 UFJ 銀行が Alteryx を導入してから約 1 年が経ち、データ処理の効率化・高速化に加え、個人の分析力のスキルアップや業務の見直しも実現しつつあります。
効果1:大量のデータ処理にかかっていた既存工数がおよそ 26 分の 1 まで短縮
Alteryx 導入によって実現できたこととしてまず挙げられるのは、分析作業の効率化です。
「これまで1回130時間かかっていたデータクレンジング作業が、約5時間に短縮できました。データを処理する力が強いというのは大変効く上に、プロセスの改善に有効だと理解しました」(濱田氏)。
また数十万という膨大な数のデータを、分析が必要な数十件に絞ることで、より深掘りしなくてはならない個別調査に時間をかけることができるようにもなりました。 これまでやりたくてもできなかった作業にも手が回り、調査の範囲が広く深くなるとともに、作業の高度化も実現できたといいます。
現場のI&Aとしても、一番評価できるのは「使い勝手のよさ」だと小野氏。さまざまな分析ニーズに係る大量データを短時間にクレンジングすることが可能になったと言います。
「新しい商品・取引形態が増えわれわれの業務範囲が広がっている一方で、対応するメンバーなどリソースが限られているため、すべてをタイムリーに対応できない状況が続いていました。Alteryxにより効率化が進んだため、業務のスピードが速まるとともにそのカバレッジも広がりました」(松浦氏)。
効果2:人材のスキルアップの実現(データや分析を扱えるリソースの拡大)
今までプログラムを作るには、開発者による業務分析・詳細設計・コーティングという工程が必要でした。 しかし、Alteryx では、現場の担当者がアイコンを並べるような直感的な作業でワークフローを作ることが可能です。 担当者自身が「フローがおかしい」と感じれば、「あっちとこっちとつないでみようか」「一緒にしてみたらどうだろう」といったことを、自分の業務の中で試すことができます。
「Alteryxを使うと、机上で設計を考えることとコーディングが同時にできます。また、自分で作った設計やロジックが整理されているかどうかを、ワークフローを見ながら磨き上げていくことができる。細かくワークフローをきれいにしていくことで、ロジック・業務設計・業務要件も整理できます。この点は思いがけない良さだと感じています」(藤森氏)。
さらに、Alteryxの活用が人材育成にも寄与していると濱田氏は言います。
データ処理の素人だった人が、トレーニングを受けたあとも自分で作ったワークフローを使って試行錯誤していますが、この過程で人材がだんだん育っていく。ナレッジのシェアの点でも非常にやりやすい。Alteryxは人材育成にも寄与しています」(濱田氏)。
「これまでだと、『こういうことをやろう』となると、まずシステム部門に対して要件定義書を出すところから始めなくてはなりませんでした。今は『まずデータをください。データさえあれば私たちでなんとかします』とまで言えるようになってきました。データと道具がそろえば、エンドユーザー (現場の担当者) の方でいかようにもデータで遊ぶことができる。これからはデータレイクの充実とAlteryxに関するスキルの上昇の両方が進めば、エンドユーザーの力で自分の望むものを実現することができる、というふうになっていくと思っています」(藤森氏)。
効果3:自行内におけるデジタルトランスフォーメーションを加速化
濱田氏はAlteryxを導入してから1年で、三菱UFJ銀行が進めていたデジタルトランスフォーメーション (DX) の必要性が可視化されたと話します。
「これまで手作業だった分析がツール化され、データ分析に携わる行員が着実にスキルアップしていく中で、行内におけるデジタルトランスフォーメーションの必要性の認識は、今回のAlteryxの導入をきっかけに、一層高まりました」(濱田氏)。
「現在は銀行全体のデジタル化を進めるために、デジタル企画部との議論・連携もさらに加速化し、新たなDX化の取り組みも進めやすくなりました。Alteryxの導入がそのきっかけになったことに大変感謝しています」(濱田氏)。
効果4:分析の高度化で「I&Aが動き始めた」
Alteryx により業務を効率化することで、さらなる高度な分析に手が出るようになった I&A。 その流れに伴い、I&A に対する社内の評価も少しずつ変わったといいます。
「われわれのミッションは高度な分析を行うことですが、Alteryxがなかったら果たせなかったかと思います。AI化が世の中で当たり前に言われるようになってきた中、何もできずもどかしさを感じていました。しかし今は、I&Aが自分たちで歩き始めたと、社内でも評価されています。資金異動のネットワーク図などがビジュアルで見られるところなどはマネジメントにも受けがいいですね」(小野氏)。
GFCD では現在進行系で、「Alteryx に則した形で分析できる組織・チーム」の立ち上げが進んでおり、今まさに試行錯誤的にツールを使っている最中だといいます。 Alteryx によって概念検証が簡単になり、スクラップ&ビルド、トライ&エラーを担当者自身で回せることから、これからさらにさまざまな実験や試行錯誤が行えそうだと、今後の展望を話してくださいました。
「これからはさらに、『自分たちでやってみよう』と積極的にトライアルできる環境を部内・行内に提供し、データ処理に対してのハードルを下げていきたいと思っています。銀行は情報処理業とはいえ、使っているシステムには堅牢性が求められていて、古い設計思想に基づいていたり、データを触るのに制約があったりします。そこを壊していきたいですね」(濱田氏)。
「ニューヨーク・ロンドン・シンガポール・日本の拠点をAlteryxサーバーでつなぎ、こういう分析ができた、ここを直したらどうか、などの情報を交換できるコミュニケーションツールとしても活用できればなと思います。コミュニケーションを強化して、データ分析に関する知見をお互いに共有していくことで、検知すべきものをより適切に見つけられるようになる。業務の高度化という観点でますます役に立つのではないかと期待しています」(藤森氏)。
オペレーションであるI&Aとしても、Alteryxで業務の効率化・高度化を達成した一方、まだまだ使いこなせていない機能も多いとのことです。小野氏は、今後はグローバルも視野に入れ、より広範囲な業務でAlteryxを活用したいと語ってくれました。
「今後はグローバルベースでAlteryxを使っていきたいですね。例えば、ニューヨークのワークフローを使って日本のデータを分析する、といったことを実施していく予定です。また行内でいえば、AML観点の取引モニタリングだけでなく、経済制裁観点での取引のスクリーニングなど、他の分析もI&Aでやれないか、Alteryxをハブにして当部全体のデータドリブンな分析調査を一括して集約していくということも考えています」(小野氏)。
「私たちが使っているAlteryxの機能はごく一部に過ぎず、その意味ではさらなる活用の余地は大きいと感じています。今後についても、Alteryxの担当者からサポートを受けながら、さまざまな機能を使いこなすことによって、より深く広く、金融犯罪対策に取り組むことができるものと信じています」(松浦氏)。
最後に、吉峰所長に今後の展望をお聞きしました。
「金融犯罪対策の領域強化の流れが続いているので、適切に応えていけるように体制の強化に引き続き取り組んでいきたい。とりわけ、データの分析にもとづく高リスクに焦点を当てた対策の強化については、IT化・デジタル化の推進を進めながら、業務の高度化・省力化・効率化を同時に達成していきたいと考えています」(吉峰所長)。
株式会社三菱 UFJ 銀行
グローバル金融犯罪対策部
FCOJ インテリジェンスオフィス 所長
吉峰知宏 様
株式会社三菱 UFJ 銀行
グローバル金融犯罪対策部
テクノロジーチーム
ディレクター
ACAMS公認AMLスペシャリスト
藤森義朗 様
株式会社三菱 UFJ 銀行
グローバル金融犯罪対策部
テクノロジーチーム
ディレクター
濱田暢久 様
株式会社三菱 UFJ 銀行
グローバル金融犯罪対策部
FCOJ インテリジェンスオフィス
Intelligence & Analytics
ディレクター
ACAMS公認AMLスペシャリスト
松浦裕児 様
株式会社三菱 UFJ 銀行
グローバル金融犯罪対策部
FCOJ インテリジェンスオフィス
Intelligence & Analytics
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小野精一郎 様
地域:グローバル
業種:金融サービス
部門:BI/分析/データサイエンス
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